新型コロナウイルス感染拡大と区分変更申請件数増加の関係
新型コロナウイルスの感染拡大により、高齢者の要介護度が全国的に悪化しているという報道がありました。
それ本当?認定調査にまつわるこのニュースについて確認してみたいと思います。
まずはニュース記事から。
高齢者要介護度、全国的に悪化か 区分変更申請、緊急宣言後に急増―時事通信調査
介護保険の要介護度が進んだ場合などに出す区分変更申請の件数が全国的に急増していることが31日、時事通信の調査で分かった。専門家は新型コロナウイルス感染を恐れた高齢者が外出や施設利用を控えたことで、身体機能に悪影響が出ている可能性があると分析。「体力や認知機能の低下の危険にも目を向けるべきだ」と警鐘を鳴らした。
調査は都道府県庁所在市(東京都は新宿区、佐賀市は広域事務組合の数字)と政令指定都市の計52市区を対象に実施。要介護認定の区分変更申請や新規申請件数などを尋ね、政府が緊急事態宣言を発令した2020年4月以降、同11月までの件数と19年実績を比較した。
その結果、宣言発令中の20年4~5月に前年実績を大きく下回っていた区分変更申請の件数は宣言解除後の6月、全国で前年同月比17.9%増と急激に増加。感染の「第2波」が襲来した8月は同8.3%増と伸びが鈍化したが、その後再び大幅に増え、9月(同21.7%増)、10月(同23.3%増)と連続で19年実績を2割超上回った。この2カ月は調査対象の自治体の9割超で変更申請が増加していた。
新規申請件数は増減率に違いはあるものの、区分変更申請と同様の傾向がうかがえ、「感染拡大中の申請控えの反動」といった見方を示す自治体もあった。ただ、20年10月には要支援から要介護へと変わる申請が前年同月比30%超増えた自治体が10市に上り、近畿地方の担当者は「自然増ではあり得ない」と話している。
調査では、増減傾向の背景や申請業務で気付いた点についても、自由記述で回答を求めた。複数の自治体が「通所リハビリや短期入所の利用が落ちている」などと記載。「秋口以降、申請理由に『利用控えによる機能低下』との記述が散見される」(奈良市)、「家族が帰省できず対応や支援が遅れがちになっている」(佐賀市)など、自粛生活が症状悪化につながったことをうかがわせる回答も寄せられた。
調査結果について、国立長寿医療研究センターの島田裕之・老年学社会科学研究センター長は「感染者数と申請の傾向に連動がみられ、自粛に伴う重度化が起きた可能性が高い」と分析。「対策を考えないと、介護費の増大などで顕在化するのでは」と警戒した。
時事通信より
介護行政に詳しい淑徳大の結城康博教授も同様の見方を示した上で、「新規の方が増加が緩やかなのは、支援を求めず悪化を我慢する余力があるためとも考えられる」と指摘。「個人的にはコロナより機能低下の方が恐ろしい。行政が感染リスクだけを強調するのは間違いだ」と訴えた。
記事をまとめると、要点はこうです。
・新型コロナウイルス感染拡大移行、区分変更申請が増えている
・要支援→要介護になるケースが増えた
・専門家は自粛の影響による重度化が原因ではないかと主張
このニュースを少し深堀してみたいと思います。
閉じこもりによる心身機能への影響
専門家が指摘するのは閉じこもりによる重度化です。
デイサービスや通所リハビリなど通所系サービスの利用控えによる重度化という側面を強調しています。
通所系サービスの利用控えだけでなく、一般高齢者が利用する地域のサロンや老人会などの開催がストップすることで社会参加の機会を失う高齢者も少なくありません。
閉じこもりにより、高齢者の心身にどのような影響があるかというと、
・外出・運動・歩行機会が少なくなることによる身体機能の低下
・おしゃべりをしなくなることによる口腔機能の低下
・交流・会話機械減少による認知機能の低下
・人と交流することが少なくなることによる鬱傾向や精神面での影響
などが考えられます。
もちろん、交流機会が少なくなることは大きな悪影響があります。
これにより要介護状態が悪化することは十分に考えられます。
家族の介護負担が増大
重度化や外出機会の低下により家族の介護負担は増えています。
この点はフォローが必要ですよね。
ただ、テレワーク・在宅ワークが拡大したことにより、家庭内の介護力が強まっている家庭も少なくありません。
新規申請件数が減少した期間に関しては、こういった家族介護の力で支えていた部分が大きかったのではないでしょうか。
認定有効期限の延長申請が可能に
まず、前提として、現在介護保険の認定期間の延長申請が可能になったことを紹介します。これは前回の記事にも紹介した通りです。
認定調査が困難な場合、要介護認定の認定有効期間を新たに12か月延長できることになりました(令和2.2.18付連絡)。
さらに、この対象者を施設や病院にいる被保険者だけではなく、すべての被保険者に広げています。
これにより、認定期間の延長を希望すれば、12か月までの範囲内で延長ができるようです。
市町村によっては、新規申請の後の更新申請は6か月間、それ以外は12か月間の延長としていますね。
介護認定調査対策本部より
つまり、今までは介護認定審査会で定められた認定期間(6か月~36か月)によって更新の申請を行い、認定調査を受けなければいけませんでした。この認定期間を認定調査を受けずに延長することができるようになったのです。
要介護1の人は要介護1のまま、要介護3の人は要介護3のまま、最大12か月の認定期間延長することができます。
多くのケアマネジャーは利用者の状態が大きく変わらない場合、またはご利用者やご家族の希望があれば認定の延長を申請しています。
逆に、利用者の状態が以前よりも改善していれば、更新の認定調査を行うことで認定が軽度になる可能性があるため、認定を現在の介護度のまま維持しようとする場合もあります(どちらかというとケアマネやサービス事業所の意向というよりも本人・家族の意向が強い印象です)。
という前提を踏まえて、ここからの考察をお伝えします。
区分変更の件数が増えたのは、必要な時に認定の見直しが行えているから
区分変更の件数が増えたのは単に閉じこもりによる重度化という側面だけではないと思われます。
更新の時期に合わせて認定調査を受けるのではなく、必要な時期に必要な区分変更申請を行うようになったことから、区分変更件数が増えていると考えられます。
認定有効期間は延長が可能になったことで、ケアマネが延長申請をすれば、基本的には有効期間という概念は事実上なくなったと考えることもできます。
であれば、有効期間に関係なく必要な時に区分変更申請をするという流れになり、区分変更の件数が増えていると考えられます。
また、以前は認定の有効期間は最長24か月でしたが、平成30年4月の改正以降は最長36か月になったこともあり、区分変更の件数が増えていると思われます。
ケアマネが認定有効期間に関わらず適切に区分変更申請を行っているということが証明されているのではないでしょうか。
そもそも認定の有効期間なんてなくてもいいんじゃないかという話
「区分変更の件数が増大した」から、「閉じこもりで重度化した」と結論付けるのはちょっと短絡的すぎるんじゃないかと思っています。
区分変更の件数が増えたのは、認定期間が延長したことで、区分変更申請するタイミングが増えたという側面で見ることもできるのではないかと思います。
だとしたら、きちんとケアマネがついているのであれば、認定有効期間なんてなくていいんじゃないかという気がするんですが。
状態も大きく変わらないのに、わざわざ更新申請して、認定調査をして、主治医意見書を書いてもらって、認定審査会をして、保険証を発行してって、この行政の事務負担減らせるだけでも大きいですよね。
認定調査員に支払う給与・調査委託する場合に支払う調査手数料・主治医意見書を(毎回コピペで)書く医師に支払う意見書作成料・保険証の郵送コストなどを削減できるだけでもどれだけのコスト削減になることやら。
今回はちょっと長くなりましたが、認定調査に関するニュースと、それに関する考察を紹介しました。
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